研究概要 |
LPSの作用メカニズムについて様々な研究が行われてる。しかし、その多くは宿主細胞が産生する炎症性メディエーターについての解析で、LPSによる歯槽骨破壊についての破骨細胞での遺伝子解析までをもふくめた細胞内刺激伝達系といった見地から検討した報告は国内外を問わず、少ない。そこで,LPSの破骨細胞内シグナル伝達経路を解析する目的で,歯周病原性細菌よりLPSを精製し,本LPSの刺激によって歯槽骨吸収が促進されるまでの,破骨細胞内での細胞内情報伝達機構の一端を,チロシンキナーゼをそのターゲットに絞り,本研究を立案した。本研究の結果,多核細胞の形成は,抗IL-1抗体の添加により抑制された。また,骨吸収は,歯周病原性由来のLPSは,大腸菌由来のLPSに比べて1.4倍の吸収活性を示した。この吸収は,抗src抗体の添加で抑制された。ウェスタン法によりLPS刺激の破骨細胞前駆細胞チロシンリン酸化を検討すると,歯周病原性細菌由来のLPSにより41-kDaの基質蛋白の存在が確認できた(平成9年度)。さらにLPSによる破骨細胞形成系にherbimycin Aを添加しても破骨細胞の形成は抑制されなかった。以上の結果より、LPSはヒト破骨細胞前駆細胞の増殖・分化を促進し、その機序は、CFU-GM系の破骨細胞前駆細胞がIL-1を産生し、オートクラインに働き破骨細胞の形成を促進し、その刺激伝達に特異的にチロシンリン酸化される2,3の基質蛋白の関与が考えられた。また、LPSによる破骨細胞の形成には,c-srcの関与のないことも明らかになった。また,さらに単核の破骨細胞前駆細胞が多核の破骨細胞になるために融合するときにも,チロシンリン酸化が活発に起きていることが分かった(平成10年度)。以上、歯周病原性細菌由来LPSの破骨細胞内シグナル伝達経路を解析することにより将来、本遺伝子のantisenseやその受容体に対するantagonistまたはantibodyの開発が可能となり、破骨細胞前駆細胞の増殖や分化をコントロールすることによって、より根本的な歯周治療の一端にかならず結びつくものと考える。
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