研究概要 |
鏡面に研磨し洗浄・乾燥した純Ti板(JIS1種),Ti-56mass%Ni,Ti-Zr合金4種類を,純水中,生理食塩水中,無機イオンのみを含むHanks溶液(pH5.0,pH7.4)中,アルブミンあるいはフィブリノーゲンを含みHanks溶液中で♯800の耐水研磨紙で汚染に注意して研磨することで,表面酸化物を除去し,同じ溶液中に浸漬した.破壊した皮膜の再生に伴う電位の変化から再不動態化速度を求め,電流の変化から溶出イオン量を算出した.また,再生被膜の構造をX線光電子分光(XPS)およびオージェ電子分光(AES)によって解析した.さらに,再不動態化した試料の電位を,生理食塩水中およびHanks溶液中で,浸漬電位から0.58mV/sでアノード側に掃引した. Hanks溶液中での再不動態化は生理食塩水中よりも遅れ,電流の測定から求めたイオン溶出量も多かった.純Tiでは溶存酸素量は再不動態化速度に影響しなかった.Ti-Ni合金ではタンパク質含有によってさらに再不動態化が遅れた.また,Hanks溶液中で再生した被膜は最表面にリン酸イオンを含有し,純Tiおよび一部の合金ではリン酸カルシウムを含有する.Hanks溶液中で再不動態化した試料の不動態保持電流密度は,純水中で再不動態化した試料よりも大きかった.図に水中およびHanks溶液中で再不動態化させたTi-Ni合金の生理食塩水中でのアノード分極曲線を示す.以上より,生体中で表面酸化物被膜が破壊した場合,被膜の再生が遅れるために予想されるよりも多くのイオンが溶出し,再生した酸化物が不動態皮膜として弱いために破壊しやすいと考えられる.
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