研究概要 |
グリシンのアミノ基にメタクリル酸クロリドを縮合して合成したN-メタクリロイルグリシン(NMGly)と象牙質コラーゲンとの相互作用の詳細を検討することを目的とし,ボールミルで粉砕したウシ歯冠象牙質を正リン酸水溶液で脱灰して得られた不溶性象牙質コラーゲンをNMGly水溶液中(pH=1.6)に共存させ,NMGlyの^<13>CNMRスペクトルを測定し,NMGlyに由来するカーボン核の縦緩和時間(T_1)を測定した.その結果,NMGly水溶液中に象牙質コラーゲンを共存させると,NMGlyのアミド基およびカルボキシル基がコラーゲンと相互作用を起こすため,NMGly分子の運動が拘束され,NMGlyに由来するカーボン核のT_1の値はコラーゲン非共存系のそれに比べて大きく減少した. NMGlyのアミド基およびカルボキシル基が象牙質コラーゲンのどの部位と相互作用を起こしているかを検討するため,コラーゲンのモデル化合物[-(^1Pro-^2Pro-^3Gly)_5-]を用い,これをNMGly水溶液中に共存させ,両者を相互作用させた場合のNMGlyおよびモデル化合物に由来するカーボン核のT_1を測定した.その結果,NMGlyのアミド基およびカルボキシル基に帰属されるカーボン核のT_1の値は象牙質コラーゲンを共存させた場合と同様に減少し,それと同時にモデル化合物のC-末端グリシンカルボキシル基に帰属されるカーボン核のT_1の値も減少した.これは,NMGlyのアミド基およびカルボキシル基がモデル化合物のC-末端グリシンカルボキシル基と水素結合を形成したためと考えられた. 以上の結果から,NMGlyのアミド基およびカルボキシル基は象牙質コラーゲンを構成しているアミノ酸残基の側鎖官能基であるカルボキシル基と水素結合を形成することが示唆された.
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