ヒト口腔癌の表層から採取した組織中には、蛍光分析および高速液体クロマトグラフィーによる分析結果から、プロトポルフィリンが多量に含まれていることが示唆された。しかし、癌と類似した蛍光を発する舌背の白垢および歯垢においてもプロトポルフィリンが含まれていることが示唆され、蛍光分析では癌組織との明らかな差は認められなかった。 ハムスター実験的誘発癌において、採取した組織からポルフィリン関連物質を抽出するとともに一部を組織学的に診断した。癌組織には、404nmの紫外線励起により583〜584nm、629〜634nm、671〜672nmの3つ蛍光ピークを認めたが、正常組織、上皮過形成、上皮異形成組織には、629〜634nmと671〜672nmのピークはほとんど認めなかった。629〜634nmの蛍光ピークはプロトポルフィリンと考えられた。 ヒト口腔癌株化細胞においては、通常培養およびヘモグロビン存在下での培養では培養液中にポルフィリン関連物質は認められなかった。しかし、プロトポルフィリンの前駆物質であるアミノレブリン酸を投与することにより、405nm紫外線励起により633〜636nmの蛍光ピークを示す物質が大量に培養液中に認められ、プロトポルフィリンが扁平上皮癌により産生されることが示唆された。 以上の結果から、口腔扁平上皮癌の示す赤色の紫外線励起蛍光は、主に組織中のプロトポルフィリンに起因することが示唆された。さらに、プロトポルフィリンを癌細胞が産生する能力を有していることが示され、ポルフィリンを中心とした癌の生化学的診断の可能性について、次年度も継続して検討を進める予定である。
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