研究概要 |
口腔扁平上皮癌における癌細胞の運動能と浸潤様式との関連を明らかにする目的で浸潤様式の異なる3種類の口腔扁平上皮癌細胞株(OSC20,3型;OSC19,4C型;HOC313,4D型)を用いて細胞の運動能を比較検討するとともに,それらの運動能に関与する運動促進因子の発現と機能について検討した.金コロイド法を用いて細胞の運動性を測定したところ,血清存在下での運動能はHOC313細胞が最も高く、次いでOSC19細胞,OSC20細胞の順であったが,無血清培地ではHOC313細胞のみが大きな運動能を示した.この結果からHOC313細胞が運動促進因子を自ら産生していることが推測された.これらの細胞における自己分泌型運動促進因子(autocrine motility factor.AMF)遺伝子の発現を検討した結果,いずれの細胞でもmRNAの存在が認められたがHOC313細胞で特に強く発現していた.またAMFに対する免疫組織化学染色ではHOC313細胞のみにAMF蛋白の存在が認められ,また抗AMF抗体により運動性が抑制されたことから,HOC313細胞が自己運動促進因子としてAMFを産生していることが明らかになった.扁平上皮癌細胞がAMFを産生・分泌しているのを証明したのは本研究が初めてである.AMFレセプターのmRNAの発現はいずれの細胞にも認められたが,レセプター蛋白の存在量はHOC313細胞>OSC20細胞の順に高く、OSC19細胞では認められなかった.AMFと同一アミノ酸配列を有するグルコース6-リン酸イソメラーゼ(glucose 6-phosphate isomerase,G6PI)を作用させると,HOC313細胞とOSC20細胞は濃度依存的に運動性が亢進し,これはAMFレセプター蛋白の発現量と相応していた.分散因子/肝細胞増殖因子(scatter factor/hepatocyte growth factor,SF/HGF)に対しては,HOC313細胞とOSC20細胞で濃度依存的な遊走性の亢進が認められた.フィブロネクチン(fibronectin,Fn)およびビトロネクチン(vitoronectin,Vn)に対する遊走性はHOC313細胞で著しく,OSC20細胞では認めなかった.以上より,口腔扁平上皮癌細胞の運動能と各種運動促進因子に対する感受性は浸潤様式によって異なり,特に4D型の癌細胞は自己分泌型の運動促進因子を産生・分泌して自らの運動能を高め,周囲組織へび漫性に浸潤していくものと考えられた.
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