(1) 胚性癌腫細胞マウステラトカルシノーマ細胞(F9)のシスプラチンによる分化誘導とアポトーシス 胚性癌腫細胞マウステラトカルシノーマ細胞(F9)はシスプラチンにより分化誘導され、増殖抑制されることを明かにした。F9細胞はシスプラチンにより、細胞周期はS期-G2/M期に停止する。この時、p34CDC2のmRNAレベルは変わらなかった。しかし、その半減期は短くなった。このことから、シスプラチンによる細胞周期の停止とアポトーシスは、CDC2の不安定化により、サイクリンBと結合したMPFが減少し、M期への進行ができなくなるためであると考えられる。 (2) 組換え修復遺伝子の阻害による抗癌剤耐性の抑制 胚性癌腫細胞マウステラトカルシノーマ細胞は増殖の盛んな細胞である。我々はF9細胞など増殖の盛んな細胞では、大腸菌相同組換え遺伝子RecAのホモログであるRad51遺伝子が発現していることを明らかにした。哺乳動物のRad51遺伝子は、細胞周期のG1-S-G2-M期に発現し、放射線やアルキル化剤などによるDNA二重鎖切断の組換え修復に関与していると考えられる。我々はマウス細胞にアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入し、細胞の増殖や放射線に対する感受性がどのように変化するか検討した。その結果、細胞の放射線に対する感受性が高くなるとともに、細胞の増殖能が低下した。また悪性のグリオーマ細胞をマウスに移植するin vivo実験では、Rad51アンチセンスDNAの処理で延命効果が認められた。さらに、放射線照射とアンチセンスDNAの両方の処置を行った場合マウスの生存日数は、著しく延長することが明らかとなった。このようなDNA二重鎖切断の修復を阻害する方法は、癌の放射線などによる治療に有効であり、抗癌剤耐性の克服にも期待される。
|