研究概要 |
我々は、唾液腺腫瘍におけるインテグリンの発現につき検討し、以下の結果を得た。すなわち、α2、α3とβ1インテグリンは、正常と3種の腫瘍組織(多形性腺腫、粘表皮癌、腺様嚢胞癌)で、その発現様相に著明な差は見られなかった。一方、α6とβ4インテグリンは、正常、多形性線腫、粘表皮癌組織では、基底側に局在したのに対し、腺様嚢胞癌では、散在性に発現した。以上の結果から、我々は、α6とβ4インテグリンの発現が、唾液腺腫瘍の分化よりも、腺様嚢胞癌の浸潤性との相関を持つと推察した。 次に、インテグリンの発現や細胞外基質の産生を促進するTGF-βと同レセプターの発現を検索した。粘表皮癌では、TGF-β1、2が検出されなかったのに対し、TGF-β3とTGF-βR1、IIは同様の発現様相を示した。すなわち、程度の差は有るものの殆どの唾液腺上皮細胞が陽性を示した。なかでも類表皮様細胞は他の細胞に比し強染した。一方、粘液産生細胞や明細胞は陰性であった。他の唾液腺腫瘍(多形性線種と線様嚢胞癌)でもほぼ同様で、主に唾液腫上皮細胞に上記の蛋白の局在が認められた。 αvインテグリンのリガンドであるオステオポンチン(OPN)の局在を、自作した抗体で免疫組織学的に検索した。その結果、検索した全ての正常唾液腺、良性と悪性の唾液腺腫瘍組織で、OPNの発現が認められた。また、OPNが正常唾液腺腫瘍組織ともに、導管上皮系細胞での発現が強く、粘液産生細胞では発現が認められなかったことから、OPNの発現と唾液腺細胞の分化との相関性が強く示唆された。 細胞周期調節因子のp53,p21サイクリンEno腺様嚢胞癌における発現は、構成細胞別に差が見られたが、細胞の増殖能に起因するものと考えられた。テロメラーゼ活性と、唾液腺腫瘍の悪性度との相関は認められたが、細胞分化との相関は見られなかった。
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