口腔領域で最も頻度が高い単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染症に対するプロテインキナーゼC(PKC)活性化剤テトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)ならびにブリオスタチンの作用につき検討を加えた。A431表皮癌細胞の円形化を生ずるHSV-1F株感染の場合、TPAによる細胞変性への効果は明らかでなく、ウイルス産生は100nM TPAにてやや減少した。これに対して、細胞融合を生ずるHSV-1 HF株を低い感染多重度でA431細胞に感染した場合、TPAの濃度依存的に細胞融合が促進され、ウイルス産生量も増加した。ミクロフィラメントの阻害剤であるサイトカラシンDにて細胞を処理すると、細胞の円形化をきたしてHSV-1 HF株による細胞融合は阻害され、TPAによるウイルス産生の増加はみられなくなった。したがって、TPAは感染多重度と細胞融合依存的にHSV-1感染を促進すると考えられた。ブリオスタチンはTPAと異なり、HSV-1感染による細胞融合を増強せず、むしろTPAの増強効果に拮抗する作用を示した。PKC阻害剤H-7とTPAの前処理は、TPAの作用を十分抑制しなかった。また、合成ジアシルグリセロール1-oleoyl-2-acetyl glycerolには、TPAのような細胞融合増強効果はみられなかった。A431細胞にはイムノブロット検索にてPKCのα、γ、δ、θ、ι、λ、μ、ξの発現がみられるが、TPAの前処理でPKCをダウンレギュレートしておいても、TPAによるHSV-1感染細胞の融合増強は認められた。したがって、HSV-1感染細胞融合の促進には、PKCが直接関与しない経路でTPAの作用が発揮されるものと考えられる。一方、TPAとブリオスタチンはいずれもウイルスの細胞からの放出を促進する働きのあり、この過程にはPKCが直接関与すると思われる。
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