研究概要 |
ブリオスタチンは同じプロテインキナーゼC(PKC)活性化剤であるテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)と異なり発癌に対するプロモーター作用はなく、逆に抗腫瘍作用を示すことが報告されている。細胞として、マウス顎下腺癌より樹立した培養顎下腺癌細胞cl12とA431ヒト表皮癌細胞を用いて、ブリオスタチンとTPAの単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染に対する効果を検討した。その結果、これらPKC活性化剤はともに細胞骨格構成成分であるアクチン線維の配列変化を誘導し、HSV-1感染による多核巨細胞形成を促進した。この効果は、PKC阻害剤H-7、スフィンゴシンにて阻害された。アクチン線維を破壊するサイトカラシンDにて細胞を処理すると、TPAのウイルス感染への効果はみられなくなった。PKCのアイソフォームのうち、PKCbetaを過剰発現させた細胞では、PKC活性化剤の作用が強く発現した。ブリオスタチンとTPAはPKC活性化を介して、アクチン線維に作用しウイルス感染細胞の融合を促進してウイルス感染の拡大に寄与するものと思われる。顎下腺癌細胞cl12は上皮増殖因子では影響をうけなかったが、酸性線維芽細胞増殖因子にて増殖が促進された。ブリオスタチンとTPAは10,100nMの濃度で、cl12細胞とA431細胞の増殖に対して抑制的に働いた。PKCbetaを過剰発現させた細胞では、PKC活性化剤の作用が強く発現し、細胞の分化誘導剤へキサメチレンビスアミドとの併用でアポトーシスが観察された。このようにPKCを活性化する薬剤ブリオスタチンは癌細胞の増殖を阻害するが、一方でHSV-1の増殖促進にも働く。したがって、ブリオスタチンを抗癌剤として臨床応用する場合には、ウイルスの再活性化や増悪に注意を払う必要がある。
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