研究概要 |
BCG菌は,菌株によって抗原物質の産生分泌量が異なり,抗腫瘍効果も異なっている.そこで,組み換えBCG菌による癌治療法開発を目的とし,BCG菌より調整した蛋白質の,口腔癌由来樹立細胞株の増殖に及ぼす影響を検討した. BCG菌東京株をソートン培地で3週間静置培養した後,培養上清と菌体成分とを分離し,透析して分泌蛋白質(CF)を,また菌体を超音波破砕して細胞破砕液(Ly)を調整した.ヒト舌扁平上皮癌由来樹立細胞株(SCC-25)およびヒト歯肉由来線維芽細胞様細胞(HGF)に種々の濃度のCFおよびLyを添加して培養し,MTTアッセイを用いて,72時間後の細胞増殖に及ぼす影響を測定した. CFおよびLyは濃度依存性にSCC-25の増殖を抑制した.また,CFはLyに比較してより高い増殖抑制効果を認めた.今後,特に増殖抑制効果の強いCFについて,各フラクションに分離し,それぞれのフラクションについて抗腫瘍効果を検討していく予定である. また,BCG菌は直接的な抗腫瘍効果とともにマクロファージを介した間接的な抗腫瘍効果も合わせ持っている.チオグリコレートをマウス腹腔に注射することで,腹腔マクロファージを誘導・分離した.これに振盪培養したBCG菌を感染させた後,感染マクロファージよりファゴゾーム等を分離し,マクロファージ内でのBCG菌の生物活性を検討した. 通常細菌はマクロファージに貧食され,ファゴゾーム内でペプチドに断片化され,MHCクラスII分子に結合して抗原が提示される.ところが,BCG菌のある抗原蛋白質はファゴゾーム内より細胞質に分泌移行していることが示唆された.このことは,MHCクラスI分子を介して抗原が提示され,CD8T細胞の活性化され,細胞傷害活性が高められる可能性が示唆された.今後細胞質内に分泌移行される蛋白質について詳細に検討していく予定である.
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