ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症患者は、その自然経過中に口腔カンジダ症、口腔毛状白板症、HIV関連歯周疾患などの口腔病変を発症する。HIV関連歯周疾患の特徴は、急速に進行し、しかも通常の治療に抵抗性であることである。われわれは、HIV感染症患者にみられた歯周疾患の歯周病変部の電子顕微鏡学的観察を行った。その結果、急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)の透過型電子顕微鏡による観察では、上皮細胞の表面から上皮下結合織にかけて球菌、棹菌、スピロヘータなどが多数観察された。辺縁性歯周炎の透過型電子顕微鏡による観察では、有棘細胞層の上皮細胞は、細胞質が淡明となり、ミトコンドリアは膨化し、細胞内小器官は散在していた。各胞間隙は拡大し壊死物質とリンパ球や形質細胞を中心とした慢性炎症性細胞浸潤も認められた。上皮下結合織内の毛細血管の内皮細胞の細胞質内にはtubulo-reticular structure(TRS)やWeibel-Palade小体、pinocytotic vesicleなどが観察された。TRSは、電子密度の高い種々の長さの管状物が波状にうねり、互いに絡み合い、種々の大きさの網状の形態を呈していた。Weibel-Palade小体は、棍棒状ないし楕円形を呈し、一層の単位膜で囲まれた中に細管が密着して高い電子密度を呈していた。
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