研究概要 |
抜歯時の血圧変動における副交感神経と交感神経の役割を検討した。抜歯のため当大学附属病院口腔外科を外来受診し、本研究の意義を理解し協力してくれた患者でinformed consentが得られたもの40名(19-74歳;平均42.7歳)を対象とした。普通十二誘導心電図を記録後、24時間Holter心電図(胸部に5個の誘導電極)と自動血圧計(左上腕にマンセット)を装着した。24時間Holter心電図は連続記録を、血圧は2分毎連続記録を行った。R-R間隔スペクトル分析処理プログラム(フクダ電子HPS-RRA)を用い、診療台移動前、移動後でかつ局麻前、局麻後でかつ抜歯前、抜歯中、抜歯後に分けて各箇所5分間ずつR-R間隔スペクトル分析を行った。TF(0.000-4.000Hz),HF(0.140-0.500Hz),LF(0.041-0.140Hz)の各成分と%HF(副交感神経に相当)、LF/HF(交感神経に相当)を算出した。個々の抜歯毎に歯科医がその抜歯の難易度・局麻の種類と量を記録した。局麻前の基礎血圧は121±3/70±2mmHg、脈拍は70±1/分であった。8万倍エイネフリン含有キシロカイン局麻投与で血圧、脈拍共に増加した。抜歯術中にさらに血圧は上昇し、132±3/73±2mmHgとなった。血圧の上昇は特に40歳以上(n=20)の中高年齢者で著明であった。一方、%HFが局麻により40歳未満の若年者(n=20)で有意に減弱した。LF/HFは局麻により若年群で増強され、中高年群で減弱した。以上から、抜歯術で中高年患者で血圧上昇がより大であること、R-R間隔スペクトル分析で解析された抜歯術中の副交感神経と交感神経の変動は若年者と中高年者で異なることが示唆された。
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