近年インプラントの材料としては、チタンが最も多く用いられている。チタンインプラントの上部構造としては通常金合金などが用いられているが、チタンはイオン化傾向の大きな金属であり、上部構造との間に電位を生じる。そこで、例えばねじ止め構造のようにアバットメントと上部構造が電気的に接触している場合とセメントなどの絶縁体を介する場合とでは流れる電流の量に大きな差が予想される。そこで、我々は以下の実験を行った。 まず、チタンと種々の金属との間の電位を測定した。用いた金属は歯科用パラジウム合金、18K金合金、医療用ステンレス合金などで、純チタンとこれらの合金をヒト血清中に浸透し、両者の電位をブリッジ回路により測定した。その結果、歯科用パラジウム合金とチタンとの間の電位差が最も大きく、0.52Vであった。また、両者間に流れる電流は、電極の面積に依存し、また時間とともに減少した。これは電極間に分極が起きるためと不導体膜が生ずるためと思われた。 チタンおよび種々の歯科用金属板を用いて培養細胞の附着状態を観察した。用いた細胞はNA細胞で、チタンおよび他の金属を同一シャーレに入れ、一方は両金属を離しておき、もう一方は電気的に接触させた。その結果、電気的に接触させた方はチタン、および他の歯科用金属の両者とも培養細胞の附着が阻害された。以上の結果より、チタンインプラントと他の歯科用合金を電気的に接触させることは骨接合の障害になることが示唆された。
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