研究目的および方法:開口時顎関節部痛を訴える35例を対象に、関節腔内麻酔前、麻酔後1分および麻酔後5分に各種疼痛検査を施行し、疼痛反応の時間経過を調査した。 結果:麻酔前検査法毎に有痛者数を母数として麻酔後の疼痛残存率をみると、咀嚼筋では、咬筋中央部の55.5%を除いて側頭筋前部筋束部14.3%、咬筋下部30.8%であり、麻酔後1分で約70%以上の疼痛が消失しており、5分後でも差はみられなかった。顎関節近傍では顎関節外側部と外耳道は麻酔後時間経過によって差はみられず、約1/3〜1/4に疼痛が残存した。総合的な疼痛検査の下顎前方牽引、自発性最大開口時痛、および噛みしめ時痛の残存率は時間経過と共に約半数に減少し、オトガイ圧迫では50.0%から12.5%と有意に減少していた。また耳介麻痺は14.3%から40.0%と有意に増加した。耳介下部の疼痛反応は半数以上に残存した。これらより、側頭筋、咬筋下部および顎関節近傍での疼痛は麻酔後1分で麻酔効果が出現し、時間経過でほとんど変化が生じず、総合的疼痛検査では時間経過と共に疼痛残存率が減少していく傾向が示された。また耳介下部の疼痛は関節痛と強い関連性は見られなかった。 耳介側頭神経への麻酔液の浸潤を示す耳介麻痺の出現は麻酔後1分では少なく、5分では有意に増加していたことから、麻酔後1分では関節腔内においてのみ麻酔効果が出現し、その後に関節包外に麻酔効果が浸潤するものと考えられた。麻酔後5分で疼痛が残存していたにもかかわらず耳介麻痺が出現したものは最大開口時痛の8例中3例と下顎牽引での5例中3例であり、これらは耳介側頭神経の侵害受容に依存しない疼痛であると考えられた。
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