研究目的・実施計画:顎関節症とは、咀嚼筋系、顎関節および付随する構造を含む多くの臨床問題を包括する集合詞である。顎関節症の痛みは、患者にとって治療を求める主たる理由である。顎関節症の顎関節痛病態には滑膜炎、関節円板後部組織の圧迫・伸展刺激、転位円板による関節前方部組織刺激などの局所因子以外に関連痛あるいは中枢性興奮などが考えられている。一方、臨床での顎関節痛の評価には様々な検査法が用いられているが、これらの検査が何の痛みを評価しているかは不明である。そこで2種類の実験系を構築し実施した。すなわち、開口時顎関節部痛を訴える片側性顎関節症症例を対象に有痛側顎関節上関節腔麻酔を行い、(1)35名の患者に対し、各種疼痛検査の反応様式を麻酔前および麻酔後経時的に観察し、麻酔後の疼痛評価の適正時間を調査し、また顎関節上関節腔麻酔が各種疼痛検査に及ぼす影響を明確にした、(2)22名の患者に対し、麻酔前各種疼痛検査結果を核磁気共鳴画像(関節円板転位(復位性、非復位性)の有無、変形性関節症の有無)と関節鏡視所見(滑膜血管増生、関節軟骨異常)で対比し、どの疼痛検査が顎関節のどの病変を反映しているか、顎関節の疼痛局在を検討した。新たな知見:2つの実験で以下のことが提案される。すなわち、機能時顎関節痛の存在は顎関節症患者において各種疼痛検査の結果にさまざまな影響を及ぼし、また機能時や触診による患者の疼痛受容は疼痛源を指摘していないことが明らかになった。さらに臨床での各種疼痛検査で特異的な顎関節内異常を疼痛源として指摘することは困難であるが、開口時顎関節に疼痛を訴え、かつ咬筋中央部に圧痛を認める患者では顎関節軟骨に異常が出現している可能性が指摘された。
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