研究概要 |
翼突下顎隙近位注射法における局所麻酔薬拡散のX線学的評価 本年度は,近位注射法(近位法)における局所麻酔薬の翼突下顎隙内での拡散過程を明らかにすることを目的に,経時的な局所麻酔薬分布を放射線学的に検討した. 健康成人ボランティア25名を対象として,1名に対して下顎孔注射法(従来法),25名に対して近位法を行った.被検者を坐位として,造影剤オプチレイ350と静注用10%リドカインを4:1で混合した溶液1.8mlを,27G,19mm針を装着した2.5mlディスポ-ザブル注射筒を用い,翼突下顎ヒダのやや外側,咬合平面の1cm上方を刺入点として,従来法では対側の犬歯方向より約20mm,近位法では対側の第1大臼歯の近心方向より約10mm刺入した.X線TV撮影を行い,針先が目的の位置にあることを確認した後,側面造影X線写真を撮影,続いて,X線TV撮影を継続しながら造影剤1,8mlを約30秒間で注射,閉口させた後,造影X線写真を撮影した.X線TV画像はビデオカメラレコーダにより記録し,撮影終了後,ビデオキャプチャ装置ならびにグラフィックプリンタにより造影剤注射時より閉口時までの動画と10秒間隔の静止画を記録した.X線TV撮影終了後,下顎頭より下顎下縁まで5mm間隔でCT撮影を行い,各横断面での造影剤分布の観察を行い,翼突下顎隙の形態と薬剤分布を解析した. この結果,従来法と同様に近位法でも造影剤は迅速に翼突下顎隙内を拡散することを確認し,CT画像において造影剤が下歯槽神経まで到達することを確認した.また,下歯槽神経に造影剤が拡散した症例における自覚的所見として口唇,オトガイ皮膚の麻痺が生じ,内側翼突筋あるいは側頭筋に拡散した症例では,口唇の麻痺は生じなかった. 以上より,近位法においても局所麻酔薬は下歯槽神経に到達し,伝達麻酔効果が生じると考えられた.
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