研究概要 |
口腔病変(多形性腺腫15例、腺様嚢胞癌5例,粘表皮癌10例,エナメル上皮腫22例,悪性エナメル上皮腫1例)のパラフィン包理材料を用い,エストロゲン〔ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)の発現を免疫組織化学的に検索し、これらの病変の発症と増殖に内分泌環境が関与するか否かを検討した。ERとPgRは、正常唾液腺組織において、主として導管系細胞に発現しており、腺房細胞の陽性細胞は少なく、筋上皮細胞は陰性であった。唾液腺腫瘍では、多形性腺腫の15例中8例、腺様嚢胞癌の5例中3例(60%)、粘表皮癌では、ERとPgRともに中間細胞と類表皮細胞に主として発現しており、陽性率10%以上のものが3例で、最大28%の腫瘍細胞に両受容体が証明された。エナメル上皮腫では、ERは間質に接した円柱状およびその内方の星状細胞ともに陽性所見が観察され、陽性例は男性5例、女性6例の50%であった。さらに、悪性エナメル上皮腫においても両レセプター共に極めて高い陽性細胞比率が認められた。ERとPgRの両受容体の発現は,エストロゲン標的臓器と同様のホルモン感受性機構の存在を示している。上述の結果は、口腔の良性、悪性腫瘍番こおいて、性ステロイドが腫瘍細胞の維持,増殖の調節に関与するエストロゲン依存性の性格を有するものの存在が示唆された。そこで、ER陽性腫瘍が抗ホルモン剤によって腫瘍細胞増殖抑制効果を有するか否かを検討する目的で、DMBA誘発ラット顎下腺腫瘍モデルを作成して実験的な検索を行った。腫瘍モデルの生検材料でERの発現を免疫組織化学的に検索した結果、陽性例(陽性細胞比率から10%cut offlevelによる評価)が8例(47%)で、陰性例が9例(53%)であった。陽性例では、ラットのエストロゲン受容体cDNAプロープを使用してのin situ hybridization法により、いずれも細胞質内にERmRNAの発現が認められ、免疫染色所見を裏づける成績を得た。生検後1週から非ステロイド系の抗エストロゲン剤であるtamoxifenを連日10日間担腫瘍動物への投与を行った結果、ER陽性例8例中3例に著しい腫瘍増殖抑制効果が認められた。本研究の成果から、手術及び化学療法、放射線療法によっても制御不能な口腔原発の悪性症例において、ホルモンの合成や分泌の調節をすることによって腫瘍細胞の発育阻止が有効であると示唆され、その治療の一つに新たな内分泌療法を展開する可能性が期待される。
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