研究概要 |
E型カドヘリンは,上皮細胞間でホモフィリックな接着を示す細胞接着分子である.私たちは,口腔原発扁平上皮癌におけるE型カドヘリンの発現を免疫組織化学的に検索し,E型カドヘリンの発現減弱あるいは欠失が癌の分化度,浸潤様式およびリンパ節転移と密接に関連することから,この接着分子の検索は口腔癌患者の予後の判定に有効な情報を提供する手段になるとの見解を報告してきた.しかし,ごく一部の癌ではE型カドヘリンの発現が浸潤様式や患者の予後とは必ずしも相関しないものもみられた.近年,この問題に関連してカドヘリンの接着能を細胞質側から制御しているα-カテニンが同定された. そこで,62例の口腔原発扁平上皮癌におけるE型カドヘリンの発現減弱(あるいは欠失)とα-カテニンの発現との関連,および両接着分子の発現減弱(あるいは欠失)と病理組織学的所見との関連について免疫組織化学的および生化学的検索から検討を加えた. 両接着分子は,健全口腔上皮では細胞膜に均一に発現した.口腔癌ではE型カドヘリンの発現減弱(あるいは欠失)が38.7%,α-CATの減弱(あるいは欠失)が71.0%の症例にみられた. ほとんどの癌でα-カテニンの発現性はE型カドヘリンと相関していたが,一部の癌ではE型カドヘリンの発現よりも著しく減弱(あるいは欠失)していた.また,口腔癌におけるα-カテニンの発現減弱(あるいは欠失)は,E型カドヘリンの発現減弱(あるいは欠失)と同様に癌の脱分化および浸潤能に相関した. このような所見から,E型カドヘリンのみならずα-カテニンの発現減弱(あるいは欠失)は腫瘍の分化度および浸潤能と関連していることが明らかとなった.
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