本研究は、口腔癌における血管新生の機序についての解析を行うとともに、このことを応用した新しい治療法の開発を試みる目的で行った。ウサギの角膜法を用いてHGFの腫瘍血管新生における役割について検討したところ以下の結果を得た。1)VX2舌癌の小片およびrHGFは血管新生を誘導した。2)VX2舌癌の小片による血管新生は抗HGF抗体で阻害された。これらのことからVX2舌癌の腫瘍血管新生には、HGFが関与していることが示唆された。一方、実際の口腔癌患者から得た検体の組織標本において、癌胞巣周囲の微少血管の血管内皮細胞にc-Met(HGF受容体)発現が高頻度に認められことから、口腔癌の腫瘍血管新生には、HGF-c-Metの情報伝達系が関与している可能性が推察された。一方、vascular endothelial cell growth factor(VGEF)の受容体であるFlt-1やFlk、あるいは癌の転移と関与していると考えられている接着分子ICAM-1やV-CAM-1の発現に、HGFが関与している可能性について検討した。培養血管内皮細胞(HUVEC)に対して、rHGFを添加し、ELIZA法を用いてFlt-1やFlkあるいはICAM-1やV-CAM-1の発現強度を測定したが、HGFによるこれら受容体の発現増強は明らかでなかった。すなわち、これら分子の発現はHGF以外の因子によって発現が制御されることが推察された。これに加えて、口腔癌における血管新生阻害の抗腫瘍効果について検討した。TNP-470は著しい血管新生阻害と抗腫瘍効果を示した。すなわち、腫瘍血管新生阻害剤は口腔癌の治療に有用であり、新しい治療法として臨床応用が可能であるとが考えられた。本研究の結果より、HGFが腫瘍血管新生に関与し、ひいては口腔癌の進展に関与していることは明らかであるため、今後はHGF-c-Metのシグナル伝達系の阻害による抗腫瘍効果とその臨床応用についても検討したいと考えている。
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