早期からの上顎前方牽引装置を適用した唇顎口蓋裂患者について、顎顔面各部の治療前の顎顔面形態に基づく上顎骨の前方成長量の予測を試みた、研究対象として、北海道大学歯学部附属病院矯正科を受診した、口唇・口蓋形成手術既往の片側性唇顎口蓋裂者22名(男子13名、女子9名)を選択した。これらの患者の矯正科初診時平均年齢は6歳7ヵ月(5歳7ヵ月〜8歳2ヵ月)で、上下顎の成長のコントロールとして、上顎前方牽引装置を1年間以上使用して上顎骨の成長促進を行った。口蓋形成手術はすべて本学附属病院口腔外科で1歳6ヵ月前後に粘膜骨膜弁剥離によるpush back法により行われている。資料として、これらの患者の矯正科初診時の正面と側面頭部X線規格写真、およびそれよりほぼ1年後に撮影された側面頭部X線規格写真を用いた。正面頭部X線規格写真からは、安藤らの方法を用いて鼻中隔弯曲度を測定した。側面頭部X線規格写真分析における計測項目として角度計測2項目、距離項目4項目の計測を行い、本装置を用いた治療による上顎骨の前方移動量と治療前の顎顔面形態との単相関分析および重回帰分析を行った。その結果以下の知見が得られた。 1) 上顎前方牽引による上顎骨の前方移動量と後上顔面高、鼻中隔弯曲度の間に有意な相関が認められたが、その相関係数は治療による前方移動量を予測する上では十分に高い値ではなかった。 2) 重回帰分析により治療開始前の顎顔面形態から上顎骨の前方移動量を予測する重回帰方程式が算出された。 3) 算出された重回帰方程式により上顎骨の前方移動量を正確に予測できる可能性が示唆された。
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