本研究の目的は、根尖性歯周炎を有した歯根象牙質と健全な歯根象牙質において、その歯根吸収にどのような差異が認められるかを明らかにするものであった。 1.根尖性歯周炎を有するヒト抜去乳歯の歯根を顕微鏡観察した。病的吸収は歯根象牙質および原生セメント質の広い範囲で生じており、いわゆる虫喰的な状態の吸収窩が多数観察された。また、凹凸を有する歯根象牙質表面において、部分的ではあるが、根管の外形を補填するようにセメント質の添加が観察された。病的歯根吸収後に添加したセメント質は、本来のセメント質と著しく違った構造であった。これらのことより、添加された修復性セメント質は、本来の構造を有しておらず、吸収領域を取り巻く局所の環境が、修復機構に大きな影響を与えたことが示唆された。 2.根尖性歯周炎を有したヒト乳歯歯根(p群)および健全な乳歯歯根(n群:対照群)より試料片を作製した。マウス大腿骨骨髄から調整した細胞浮遊液(αMEM)を象牙質試料片にまき、培養を行った。培養後、試料片を取り出し固定して、酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)活性を観察した。試料片上のTRAP陽性細胞数を顕微鏡下で計測した。TRAP陽性細胞は両群のすべての試料片上に観察された。両群の細胞数の間に、統計学的有意差は認められなかった(Mann-Whitney test)。結果は、根尖性歯周炎を有した歯質でも培養破骨細胞により吸収されることが示唆された。よって、病的歯根吸収において、歯根周囲の環境因子が、歯根歯質の状態よりも、大きな影響を及ぼすと考えられた。 3.ラット皮下組織へのp群およびn群の試料片を埋入した。両群の試料片は、線維性の結合組織および炎症性の細胞により、被包されて観察され、部分的には、多核巨細胞による吸収が認められた。しかしながら、吸収は軽度なものであった。両群の試料片の状態に差異は観察されなかった。よって、病的吸収において、歯根歯質の状態は、あまり影響を与えないと考えられた。 これらのことより、病的歯根吸収に関して、歯根周囲の環境因子が大きな影響を与えることが示唆された。
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