研究概要 |
本研究は、矯正力による歯周組織の改造機構におけるストレスタンパク質(HSP)の役割を明らかにすることを目的として、ヒト歯根より得た歯根膜線維芽細胞(PDL)にin vitroで持続的圧縮力と周期的伸展力を負荷して、メカニカルストレスによるストレスタンパク質の発現を調べた。持続的圧縮力は粒状鉛で1,2,4,6g/cm^2に重さを調節したガラス円筒を細胞の上に直接乗せることにより30分〜3日間負荷した。周期的伸展力は、FLEXCELL社製のFlexcercellで1秒間伸展-1秒間リラックスの30周期/minで最大15%elongationの様式で30分〜3日間負荷した。負荷後、抗HSP47、60,70モノクロナール抗体を用いてウエスタンブロッティング法によりHSPのタンパク発現を解析した。PDLは持続的圧縮によりHSP47、60,70の発現の増強を認めたが、発現様相はそれぞれ異なっていた。HSP47は圧縮負荷開始約30分後から負荷前よりも低い発現状態になり、負荷開始約2時間後より発現が増強し、24時間以降に発現のピークを示した。HSP60は圧縮力負荷開始直後にわずかに発現を増強した後、約30分後から負荷前と同程度か負荷前よりも低い発現状態になり、負荷開始約1時間後より発現が増強し、約6時間後に発現のピークを示した後減弱し負荷前の状態に戻った。HSP70は圧縮力負荷開始約30分後より発現が増強し、約1時間後に発現のピークを示した後減弱し負荷前の状態に戻った。それに対して周期的伸展力をPDLに負荷すると、HSPの発現様相はPDLの種類により異なり、発現の増強を認める細胞とほとんど変化しない細胞が認められた。発現の増強を認める細胞は、負荷開始12時間以降でHSP47,60,70の発現の変化を示し、その後72時間後まで発現の増強を認めた。以上の結果より、PDLにはメカニカルストレスによる発現の制御機構が存在するが、発現様相は負荷様式と細胞の種類により異なることが示唆された。
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