【目的】 歯列に及ぼす舌の接触や圧力が不正咬合の発現や術後の後戻りの原因となっている可能性のあることは指摘されているが、その客観的な評価は十分にされていない。また、従来の研究では意識的に発音などの随意運動を短時間行わせたものが多い。そこで本研究は舌の接触や圧力及びそれに影響を及ぼすと考えられる頭位をより自然な状態で長時間に渡り測定し、その動態を定量的に評価することを目的として行われた。 【方法】 微小圧力センサを上下顎歯列歯槽部に設置し、無線テレメータシステムを用いて正常咬合者と顎矯正手術前後の開咬症患者を対象として口唇と舌の圧力と接触数および頭位を測定した。また、術後の患者にはMFTを適用した。 【結果】 得られた結果は以下の通りである。(1)安定症例では術後に舌接触領域が変わらないか小さく、非安定症例では逆に大きくなる傾向が認められた。(2)術後、安定症例では舌が後上方へ、非安定症例では後下方へ変化する傾向および下顎前歯の唇側傾斜が認められた。(3)術後、頭位はやや上向きとなる傾向が認められた。(4)舌圧は口唇圧よりも常に大きかった。(5)長時間に渡る圧力の測定において、正常咬合者と開咬症の術後群間には差が認められなかった。(6)舌切除術により舌の運動がわずかに制限され口蓋への挙上と押しつけが難しくなった。(7)MFTにより舌圧・口唇圧は上昇し、機能時の口蓋への接触頻度も上昇する傾向が認められた。 【結論】 本システムにより舌の動態が顎矯正手術後の歯列・咬合の安定性に関与し、MFTによる舌位の改善は有効である可能性が示唆された。
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