研究概要 |
歯牙移動に伴う三叉神経節での神経ペプチド発現の変化を知ることを目的として、今年度はまず50日齢の雄性ラットを用いて上顎臼歯を実験的に移動させ、歯根膜内におけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有神経線維の変化ならびに三叉神経節におけるCGRP陽性ニューロンの変化について免疫組織化学的に検討した。また、歯の移動により歯根膜に加わるストレスと三叉神経節における各種神経ペプチドの動態との関係について調べるために、歯根膜内の細胞におけるHeat Shoch Protein(HSP)の発現についてもノモクローナル抗HSP 60,70,90の各抗体を用いて検索した。 その結果、歯牙移動開始1時間後より三叉神経節におけるCGRP陽性ニューロンの数が減少し、3時間後に最小となったが、以後12時間後にほぼもとの状態にまで回復していた。これに対して、歯根膜内のCGRP含有神経線維は移動開始後、6時間後から僅かな上昇を示していた。一方、歯牙移動に伴って移動開始1時間後から一部の線維芽細胞がHSP60陽性を示し、12時間後までHSP陽性細胞はその数を増し、その後徐々に低下していった。 従って、以上の知見から、歯牙移動により歯根膜にストレスが生じていることがわかり、そのストレスによって三叉神経節におけるCGRP陽性ニューロンの数に変化が生じることが明らかになった。また、三叉神経節におけるCGRP陽性ニューロン数の時間経過と歯根膜内CGRP陽性神経線維の時間経過との間に差があったことは、三叉神経節の神経細胞体で合成されたCGRPがprimary neuronのみならずsecondary meuronへも輸送されているためであると考えられ、歯の移動という刺激が三叉神経節を経てより上位の中枢にまで影響を及ぼしていることが示された。
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