研究概要 |
本研究では、臨床上認められる歯の移動開始初期の痛みの発現機序、ならびに歯の移動に附随した諸現象と支配神経との関連性を考察するべく以下の実験を行った。まずラット上顎臼歯を実験的に移動させ、移動に伴う歯根膜内カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有神経線維と三叉神経節内CGRP陽性ニューロンとの変化について、同一個体を用いて免疫組織化学的に検討した。また、歯牙移動により歯根膜内に加わるストレスと三叉神経節内に存在する神経ペプチドの動態との関連性を考察するために、歯根膜内細胞におけるHeat Shock Protein(HSP)の発現様相についても検索を試みた。さらに歯牙移動の中枢神経系への影響の一端を知ることを目的に、ストレスに反応して二次ニューロンに発現するとされるFos蛋白の三叉神経脊髄路核における発現、消失過程についても免疫組織化学的に検討した。その結果、以下に示す知見が得られた。 1. 三叉神経節におけるCGRP陽性ニューロンは、歯牙移動開始1時間後からその数が減少し、3時間後に最小値を示したが、以後12時間後にほぼもとの状態にまで回復した。これに対して、歯根膜内CGRP含有神経線維は移動開始6時間後から僅かな上昇を示した。 2. 一部の歯根膜線維芽細胞は、歯牙移動開始1時間後からHSP60陽性を示しはじめ、その後陽性細胞は移動開始12時間後まで増加しつづけた後徐々に減少した。 3. Fos蛋白陽性ニューロンは、歯牙移動開始後1,2,4時間で三叉神経脊髄路核尾側亜核においてその数が増加したが、特に移動開始2時間後に最大値を示した。 以上の所見から、歯の移動という刺激によって歯根膜にストレスが生じていることがわかり、その刺激は支配神経を介して、三叉神経節、さらにはより中枢にまで影響を及ぼしていることが明らかとなった。 しかしながら、当初予定していた歯の移動に伴う三叉神経節の神経細胞体におけるCGRPm-RNAの発現の変化については、個体差が大きかったことから今後例数を増やしてさらに検討を続けていく所存である。
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