研究概要 |
本研究では、骨吸収のケミカルメディエーターであるプロスタグランディンの産生抑制作用を有するエイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)の投与が実験的歯の移動と圧迫側の骨吸収動態におよぼす影響を検討した。 方法:4週齢雄性Wistar系ラットを用い、対照群とEPA-E投与群に分けた。対照群には,5%アラビアゴム水溶液、EPA投与群にはEPA-E1000mg/kgを胃ゾンデを用いて24時間毎に胃内強制経口投与しながら、ラット普通飼料摂取下で4週間飼育した後、実験的歯の移動を開始した。実験歯は上顎両側第一臼歯とし、.012Ni-Ti系ワイヤーを屈曲した拡大装置を初期荷重約20gの矯正力が頬側方向へ相反的に作用するように調節して第一臼歯の頬側移動を行った。移動期間は0、3、7、14日とした。歯の移動開始直前と終了時に作製した上顎歯列の精密模型上で,工業用顕微鏡を用いて20倍拡大下で歯の移動量を計測した。実験期間終了後、上顎骨を摘出して通法に従って第一臼歯の水平断脱灰薄切切片を作製し、これにHematoxylin-Eosin染色と酒石酸耐性酸性ホスファターゼ染色(TRAP染色)を交互に施し、光学顕微鏡観察を行った。さらに、TRAP染色切片上で破骨細胞数、TRAP陽性面、骨吸収面を計測し、実験的歯の移動に伴う骨吸収の定量的評価を行った。 結果:3日、7日、14日目における対照群の第一臼歯間距離の変化量は、0.536mm、0.654mm、1.132mmであった。一方、EPA-E投与群では、それぞれ0.475mm、0.558mm、0.952mmで、7日と14日で有意に小さな値を示し、対照群の約85%にとどまった。また、組織学的には対照群に比べてEPA-E投与群では圧迫側の破骨細胞数が約70%、骨吸収面は約80%とそれぞれ有意に減少していた。以上の結果より、EPA-Eの長期投与下では矯正力の負荷に伴う破骨細胞の出現と骨吸収が抑制され、実験的歯の移動が遅延することが示された。
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