事前の研究で、咬合挙上板を用いて上下顎間距離を変化させた場合、咬筋活動が減少すること、また前歯部接触型咬合挙上板では、咬筋活動の低下が認められるものの、臼歯部接触型咬合挙上板では、上記の変化は認められないことが判明した。今回の研究では、無装置・0mm・2mm・4mm・8mmの、異なる高さの咬合挙上板を装置し、終日筋電図を用いて咬合筋活動を終日採得し、その結果を比較・検討した結果、以下の知見が得られた。 1.咬合挙上板の装着によって、睡眠時の咬筋活動の低下が認められた。 2.睡眠時咬筋活動は、挙上量8mmで最も低下した。 3.覚醒時には条件間の有意差は認められなかった。 即ち上下顎間距離の増大に応じて、睡眠時咬筋活動が減少し、また安静空隙を大きく越える挙上量を付与することで、咬筋活動は有意に減少することが判明した。 以上のことから、実際に顎関節症の治療に用いられているスプリントに関して、以下の事が示唆された。 1.咬筋活動の抑制は、睡眠時に有効である。 2.安静空隙を大きく越える挙上量を付与することで、睡眠時咬筋活動抑制効果が期待できる。 3.覚醒時には挙上量による効果の差はない。 スプリントによる治療の効果として、咬合の影響を排除することが挙げられるが、同時に咬筋活動の低下、即ち噛まなくなることの影響が看過できないことが示唆された。
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