研究概要 |
目的:歯科診療では,歯牙切削や超音波スケーリング時に血液、唾液を伴ったエアロゾルが飛散することから,他の医療施設に比べて飛沫感染のリスクが高い。従って歯科医療施設における空気清浄度に関する管理基準を設定する必要がある。本研究では現在までの成績から口腔レンサ球菌が口腔内由来の飛沫感染の指標となる可能性を示唆した。また空中浮遊菌の経時的変化が測定可能になったことから詳細な解析が可能となった。これらの情報から歯科診療室における空気清浄度の基準を提案した。方法:現在までに実施してきた実験データを総合的に解析した結果を空気感染の発生危険度(古橋1986)として表現すると,空気中細菌濃度(C)の時間積分が被曝量:D(t)=∫C(dt)となり,空中浮遊菌の経時的変動を測定することが必要であることがわかる。今回の報告では,スリット式空中浮遊菌オートサンプラー装置で5分間隔で5時間連続測定したデータを上記の式に代入して曝露量を推定した。さらに空気清浄度は,室内の換気回数に依存することから,基準の設定の際には換気回数で補正する必要がある。これらを統計的に解析し基に空気清浄度の基準値を算出した。結果および考察: 今回の成績を米連邦規格に合わせると,クラス100,000で2.5cfu/ft^3に対して歯科診療室では1.4〜32.8cfu/ft^3の範囲であった。また米国外科医学会の許容濃度に合わせると調査した歯科医院の7割が「汚染手術」の区分となった。日本病院設備協会規格によれば,そのほとんどが準清潔区域または一般区域に該当した。グラム陽性桿菌類,グラム陽性球菌類はヒト由来,グラム陰性桿菌類は環境よりの汚染が考えられる。歯科診療に伴う空気清浄度は,α,γ溶血レンサ球菌の検出度(%)を重み付けし,清浄度クラスを分類する必要があると考えた。この基準に従えば今回調査した全ての歯科診療室は「好ましい状態ではない」という評価となった。
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