植物ポリケタイド合成酵素の構造と機能の解明を目的として、同一植物中に、カルコンの他に、スチルベンカルボン酸及び直鎖状のテトラケチドを基本骨格に持つ化合物を成分とするアマチャ(Hydrangea macrophylla SERINGE var.thunbergii MAKINO)に着目し、CHSスーパーファミリーの新たなメンバーのクローニングを行ない二つのクローンHmC、HmS を得た。HmCは、クズ(Pueraria lobata)のCHSと86%の相同性を示し、アマチャのCHSと推測された。一方、HmSは、クズのCHSと70%の相同性を示したが、他の植物PKSのコンセンサス配列と性質の異なるアミノ酸残基を持つ部分や、他のものには見られない6残基のインサーションを持っており、新たなPKSをコードしているものと推定された。HmCとHmSの全長ORFを大腸菌で発現させて酵素活性を検討したところ、HmCはアマチャのCHSHmSは閉環反応を全くせず炭素鎖伸長反応のみを触媒してテトラケチドを遊離する新しいタイプのPKSであることが判明した。炭素鎖伸長反応のみに限定されたPKSがクローニングされたのはこれが初めての例である。今回得られたクローンは2種のみであり、いずれも、大腸菌の発現系においてスチルベンカルボン酸合成酵素活性を示さなかった。スチルベンカルボン酸は、第3のPKSによって生合成される可能性も否定できないが、デオキシ型カルコンの生成にみられるように、HmSが何らかの還元酵素と協同的にはたらき、テトラケチドがヒドロキシジケチドに還元された後、HmSにより閉環される可能性が高いと考えられる。
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