研究概要 |
ホスファチジルイノシトール(PI)3-キナーゼは、生体内でP14,5-2リン酸の3位をリン酸化して、細胞増殖・分化、アポトーシス等を制御するセカンドメッセンジャーとして機能すると考えられるPI3,4,5-3リン酸を生成する重要な酵素である。この酵素は天然のPIを基質とすることができるが、ジアシルグリセロール部分の2位に天然のアラキドン酸とは異なる炭素数18,20の飽和脂肪酸が結合したPIでは反応が進行しない。そこでPI3-キナーゼの基質特異性を調べるために、ジアシルグリセロール部分の1位に天然と同じステアリン酸、2位に炭素数2〜18の飽和脂肪酸が結合したPIを合成した。合成PIをATPまたは^<32>PラベルATP存在下PI3-キナーゼ反応をおこない、3位リン酸化を行った。生成物のPI3-リン酸は、高速原子衝撃質量分析法(負イオンFAB MS)およびオートラジオグラフィーで検出した。分析の結果から、PIのジアシルグリセロール部分の2位に不飽和のアラキドン酸が結合していなくても、炭素数2〜10の飽和脂肪酸が結合していればPI3-キナーゼの基質となることが明らかとなった。負イオンFABMS分析を行うに際しては、反応生成物を効率よく検出するためにマトリックスの最適化をおこない、トリエタノールアミン-グリセロール(3:1)がPI3-リン酸の[M-H]イオンを感度よく生成することを見いだした。負イオンFAB MS分析は酵素反応液の粗抽出物を用いたが、酵素反応液中に含まれるPI、P13-リン酸、キャリアーとして加えたホスファチジルセリンの混合物から、固相抽出用カートリッジSep-pac C_<18>を用いてPI3-リン酸を単離する方法の検討をおこなった。C_<18>TLCプレートを用いて予備実験をおこない、Sep-PacからCH_3OH-CHCI_3(1:3)でPS、PIを溶出し、Sep-Pakを反転後CHCl_3-CH_3OH-0.5M NH_4OH(9:7:2)でPI3-Pを溶出できることが明らかになった。実際の分離、および分離できる試料量などについて、更に検討したい。
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