研究概要 |
ラット肝フェニアラニン転移リボ核酸を構成する37位のヌクレオシドの構造は,ヒドロキシワイブチンの3-β-D-ボフラノシル体であると推定されているにすぎず,単離・同定されたわけではない.その塩基部は,筆者らによって既に合成されたβ-ヒドロキシワイブチンの2種のジアステレオマーのいずれかであると考えられるものの,生体試料からのサンプルがないために構造が確定していない.本研究は,β-ヒドロキシワイブチンの合成法を踏襲して当該ヌクレオシドを合成することを目的とし,次のような成果を得た. 1. 糖部をシリル基で保護した縮合3環性アルデヒドと分子内塩型ホスホニウムを用いることによって,ヌクレオシドレベルでのウィッティッヒ反応に初めて成功した. 2. ここに得たβ,γ不飽和アミノ酸エステルのオスミウム酸化で得られる主成績体は容易に環状炭酸ジエステルへ変換されるのに対して,そのエピマーは同一条件下では閉環せず,主成績体の共存下で環状炭酸ジエステルを与えるという興味深い事実を発見した. 3. 環状炭酸ジエステルの水素化分解,脱保護することによって目的のヌクレオシドの2種のジアステレオマーの合成に成功した. 次に,このヌクレオシドの縮合3環部の7位置換基と6位置換基が入れ替わる異性化反応の基礎知識を得るため,モデル化合物のメタノール中ナトリウムメトキシドによる反応を検討し,以下の知見を得た. 4. 6位無置換の基質は6位メチル体に比して速く転移する. 5. 6位置換の基質の転位は,電子求引性の7位置換基によって促進され,9位カルボニル基と分子内水素結合が可能な置換基は更に大きな転移促進効果を示す.
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