研究概要 |
代表的な求核触媒である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)は水酸基のアシル化やラクトン化などの炭素-酸素結合形成や種々の炭素-窒素、炭素-炭素結合形成を温和な条件下に触媒する。本研究ではこれら一連の反応の不斉触媒化を目的としてDMAP型不斉求核触媒の開発を行った。 求核触媒は反応中心近傍に置換基を導入すると触媒活性が落ちてしまうため、触媒設計に際して遠隔位の置換基によるπ-π interactionを介した不斉制御を計画し、2-アザビシクロ[3,3,0]オクタン骨格の2位にピリジル基を8位にナフタレン環を配置した不斉求核触媒を合成した。本触媒(5mol%)を用いてラセミ体アルコールのアシル化による速度論的光学分割を行ったところ、数種の基質について良好なエナンチオ選択性が得られた(変換率61〜77%で92〜97%eeの原料を回収、s=4.7〜14)。また本触媒はDMAPと同程度の高い触媒活性を持ち、いずれの反応も室温、短時間で終了した。 本触媒作用の機構を^1H-NMRによるNOE実験により検討した結果、本触媒は基底状態ではナフタレン環とピリジン環が相互作用せず、活性中間体であるアシルピリジニウムイオンが生成するとπ-stackingを起こし、その結果アシル基のエナンチオ面制御が達成されることがわかった。このように基質との結合を引き金として触媒分子が立体制御に都合の良いコンフォメーションに構造変化を起こすことは酵素反応におけるinduced fitに対応しており興味深い。この触媒のコンフォメーション変化が遠隔不斉誘導を可能にし、また立体選択性制御と高触媒活性の両立を可能にしたと考えられる。
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