研究概要 |
近年,胃潰瘍や胃炎さらには胃がんなどが,胃内ピロリ菌感染と密接な関連があるとのデータが集積されている.それら疾病の予防,治療,再発防止に対してピロリ菌の除菌の有効性を示す実験事実が数多く示されてきており,わが国でも,最近,抗生物質とH2-ブロッカーとの併用による除菌治療が保険対象となった.しかし抗生物質の使用は耐性菌,副作用問題を避けて通れず,安全かつ有効な除菌剤の開発が望まれている. 本研究では,各国伝統医学で古くから胃潰瘍,胃炎,消化器系疾患に有効として伝承されてきた生薬から諸種生理活性物質を探索し,それらについての系統的抗ピロリ菌作用の検討に基づいて,多機能性天然抗潰瘍作用物質を開発することを目的とするものである. 本研究課題において本年度得た成果は概略以下の通りである. 1.整腸剤として古くから利用されてきた生薬類のうち,フトモモ科植物,グミ科,バラ科植物等について検討を行い,10種を超える新規ポリフェノール性化合物を単離し,それらの構造を解明した. 2.本年度単離した化合物について,抗ピロリ菌作用を検定したが,いずれも顕著な抗菌作用を示すものがなく,先年度までに見出していた知見,すなわち抗ピロリ菌作用は加水分解性タンニン類が最も強く,フラボノイド類や他のタイプのポリフェノールには活性がみられない,との結論ををさらに裏付ける結果となった. 3.活性の異なる化合物群を用いて,ホスファチジールコリン人工膜に対する膜透過性を検討したが,活性の強さと透過性の間には相関が認められなかった. 作用機序の解明は今後の課題として残されたが,顕著な抗ピロリ作用を示すエラジタンニン類を多量含有する植物には,アキグミ,ハマナス,コバンノキなどがあり,今後これら植物エキス素材の潜在的有効性をさらに詳細に検討し,天然抗潰瘍薬物としての利用を図りたい.
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