研究概要 |
コール酸やケノデオキシコール酸などに代表される胆汁酸は肝においてコレステロールから生合成される。その最終ステップは24-オキソ-3α,7α,12α-トリヒドロキシ-5β-コレスタン-26-カルボン酸(24-オキソ-THCA)のCoAエステル(1)のチオリシス反応であると考えられているが確証に乏しい。この興味ある炭素-炭素結合切断反応のメカニズムを解明することが本研究の目的である。化合物(1)はβ-ケトチオエステル構造を有することが特徴である,そこでまず(1)およびその構造類縁体としての24-オキソ-THCAのエタンチオールエステル(2)、N-アセチルシステアミンエステル(3)、およびエチルエステル(4)の化学的合成法を検討した。(2)および(4)はコール酸誘導体のイミダゾライドとメチルマロン酸のハーフエタンチオールエステルまたはハーフエチルエステルのマグネシウム塩との反応で合成できた。また化合物(1)および(3)は化合物(4)から数工程で得られるチオグリコール酸エステル体をCoAまたはN-アセチルシステアミンと反応させるチオールエステル交換反応によって合成できた。 ついでこのようにして合成した化合物(1〜4)とラット肝ミトコンドリア分画または人肝ガン由来のHepG2細胞とインキュベートし、これらがコール酸またはその誘導体に変換されるか否かを検討した。インキュベーション後Bond elutによる固相抽出、けん化、ρ-ブロモフェナシルエステル化、LH-20またはシリカゲルTLCによる精製を経て、最終的にODS逆相HPLCで同定、定量した。その結果CoAエステル(1)はラット肝ミトコンドリア、HepG2細胞とのインキュベーションで、いずれも好収率(30%以上)でコール酸に変換されることかわかった。またHepG2細砲はエタンチオールエステル(2)およびN-アセチルシステアミンエステル(3)をわずか(5%以下)ではあるがコール酸に変換した。これに反し(2)の酸素エステル同族体である化合物(4)はほとんどコール酸に変換されなかった。以上の結果はコール酸生合成前駆体としてのβ-ケトチオエステル構造の重要性を示唆しており、特にCoAエステル(1)がコール酸生合成の直接の前駆体であるという考えを強く支持している。
|