研究概要 |
六員環多窒素芳香族化合物の一般的合成法として従来用いてきた方法は、窒素原子が一個少ない五員環を出発原料とし、N-アミノ体とした後、酸化、ナイトレンの環内挿入による環拡大を経るものである。この反応経路は、用いる酸化剤、溶媒、基質の置換基等の影響を大きく受け、得られる生成物も異なる。そこでまず、酸化剤の種類による生成物の変動を検討した。その結果、殆どの1,2,3-トリアジンに対して、また唯一合成に成功している1,2,3,4-テトラジンについては四酢酸鉛がもっとも有効であることが明らかとなった。この方法を、より一般的なベンゾテトラジンに適用する試みも行ったが、分解反応が進行し、未だ環拡大生成物は得られていない。又、四酢酸鉛以外の緩和な酸化剤についても種々検討を加えているが、これまで思わしい成果は得られていない。そこで、現在分子軌道法を用い、理論的に安定性が高いと考えられるテトラジン骨格を推定し、標的分子とする方法を検討している。 更に、上記の方法では、N-アミノ化剤による窒素原子の導入を行い、引き続き酸化を行っているが、導入する窒素原子の酸化状態を変えることにより、酸化の工程を簡略化できるのではないかと考え、窒素酸化物との反応を検討した。アミンと窒素酸化物の反応は、二酸化窒素のみ多くの検討が成されている。しかし、我々の目的を達成するためには、より酸化数の小さい窒素酸化物が必要であり、一酸化窒素利用の可能性を検討した。一酸化窒素はアミンとの反応例が殆ど知られておらず、まず基礎実験として種々のアミン及びその誘導体との反応性を検討し、芳香族アミンの脱アミノ化、芳香族ヒドラジンの還元、アミドのニトロソ化等の単位反応を見いだした。今後、これらの知見を元に、一酸化窒素を窒素原子sourceとして用いた環拡大反応についても検討する。
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