ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の逆転写酵素(RT)に対してアロステッリク阻害剤として働きHIV-1の増殖を阻止するMKC-442は、現在併用療法に用いるエイズ治療薬として米国における第二相臨床試験が進行中の化合物である。他の非ヌクレオシド系RT阻害剤(NNRTI)と同様に、本化合物の場合にもRTのアミノ酸に変異が起こりやすく(MKC-442の場合Tyr181Cys)ウイルスの耐性獲得を引き起こす点に問題がある。 平成9年度の研究では、NNRTIの結合部位近傍に露出しているRT中のLys103との新たな水素結合によりウイルスの耐性獲得を抑制することを目的として、MKC-442のアシクロ側鎖部分を改変した。MKC-442/RT複合体のX線結晶解析の結果を基にコンピューターグラフィクスによるシミュレーションを行ない、アシクロ側鎖として末端にカルバモイル基を有する各種のアルキル基をデザインし、MKC-442を出発原料として用い合成した。 しかしながら、本研究において合成した化合物はすべてMKC-442よりも低いHIV-1増殖阻止活性を示し、MKC-442耐性HIV-1には全く無効であった(本研究の結果は現在投稿中である)。現在RTとの複合体を調製してX線結晶解析により分子レベルでこの結果を解析すべく研究を進めている。
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