研究概要 |
クワ(Morus alba L..)の実生より誘導したカルスはステロール系化合物およびイソプレニルフェノール系化合物を産生する。イソプレニルフェノール成分chalcomoracin, mulberrofuran E, kuwanon J, Q, R, VへのC-13標識酢酸の取り組み率を比較したところ酸化段階の少ない化合物において取り込み率が増大していた。この結果から, 酸化段階の最も少ない化合物が生合成された後に順次酸化されて一連のイソプレニルフェノール類が生成することが示唆された。また, 同カルスにはHMG-CoA還元酵素阻害剤のcompactinに対して感受性および非感受性の2種の独立したイソプレン生合成経路のあることを明らかにしており, C-13標識酢酸を投与した場合, 非感受性のイソプレン生合成経路において取り込まれる酢酸は投与した酢酸がトリカルボン酸回路を経由している。この投与した酢酸がトリカルボン酸回路を経由する機構につき検討した。クワカルスの酢酸-マロン酸経路を基幹とする脂肪酸合成に着目した。C-13標識酢酸を投与したカルスの低極性画分について, ケン化、メチル化の後、HPLCによる分離操作によりパルミチン酸メチルエステルを得, そのC-13NMRスペクトルを測定した。その結果, 同脂肪酸において, アセチルCoAのメチル炭素に相当する計8個の炭素にC-13標識の取り込みが認められた。このことから、クワカルス内で投与した酢酸から脂肪酸が合成された後, β一酸化を受けて生じたアセチルCoAがトリカルボン酸回路を経由し, compactin非感受性のイソプレン生合成経路に取り込まれている可能性の高いことが示唆された。イソプレン生合成に脂肪酸代謝が関与していることを明らかにした例は初めてであり, イソプレン生合成阻害剤の開発において脂肪酸代謝を視野に入れる必要性のあることが推察された。これらの現象は新たに M. Bombycisより誘導したカルスにおいても認められた。
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