研究概要 |
報告者はリン(III)化合物に代わる新しい不斉素子を得る目的でキラルなP,As,Sb,Bi化合物の効率的な合成法の開発、光学分割法の確立および光学活性体に関する情報の収集などに取り組み、以下のような知見を得た。 (1)第15族重元素(III)化合物の遷移金属に対する親和性を系統的に評価する目的で、トリフェニル体を用いて競争反応を行った結果、これらのPd金属に対する親和性は周期表の上に位置するものほど高くなる(P>As>Sb>Bi)ことが判明した。 (2)15族重元素から成る1-ベンゾヘテロール類に、光学活性なPd試薬({Pd[(S)-C_6H_4CH(CH_3)N(CH_3)_2](μ-Cl)}_2)を作用させると2種のジアステレオマ-を定量的に生じ、これらは分別再結晶などによって容易に分離できること、得られたジアステレオマ-のそれぞれにPPh_3を作用させると元の1-ベンゾヘテロール類が光学活性体として単離されることなどを見出した。この錯体形成反応では、用いるPd試薬や15族元素化合物の当量比や種類によって両者の生成比に差が認められた。これは両ジアステレオマ-間の安定性(解離のしやすさ)の差に基づくものと考えて、Sb化合物の単結晶X線結晶解析を行いその結果を比較検討したところ、両者の安定性の違いはPd錯体のcomfomationの違いに起因していることが示唆された。 (3)従来、15族重元素化合物はハロゲン化物と金属試薬(R-Li,R-MgX)との反応によって合成されていた。しかし、ハロゲン化物は高い反応性を示すため、金属試薬の当量数を調節することによって導入する置換基の数を制御するのは困難であった。報告者はエチニル基がハロゲンに代わる緩和な脱離基として機能することを見出し、このエチニル基の特性を利用した様々なキラルな15族重元素化合物の一般合成法を確立することができた。また、この反応を上記の光学活性Pd試薬を利用して分離した光学活性なリン化合物に適用すると、立体特異的なS_<N2>反応が起こって立体の反転した生成物を与えることなども明らかにすることができた。
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