研究概要 |
プロジェクトの最終年度でもある本年度は,1)成分研究,2)生合成類似化学反応,3)生物活性探索と3つのテーマを掲げて行った。 1)巨峰の剪定により排出される枝(蔓)を農家から譲り受け,このものの成分研究を主に行った。数種の新規スチルベンテトラマーを単離した。それらの構造は各種のスペクトル解析を行っているが,それらの完全な解明には至っていない。最終的には,化学的な反応による誘導体を調製し,結晶化させた後,X線結晶解析を行うことにより化学構造の決定を行う予定でいる。 2)比較的多量に巨峰コルクから得られたスチルベンダイマーの(+)-ε-viniferinを用いて,巨峰やヤマブドウだけでなく他科の植物から単離されたスチルベンダイマーへの生合成類似化学反応を検討した。(+)-ε-Viniferinを種々の酸で処理すると,酸の強さによって,選択的に(+)-ampelopsin B,に(-)-ampelopsin D,および(+)-ampelopsin Fに変換することに成功した。 3)単離したスチルベン化合物の生物活性を探索するために,各地の大学・企業に依頼したところ,興味深い生物活性が見つかった。スチルベンダイマーの肝細胞保護作用やスチルベンテトラマーの肝毒性作用は以前から明らかであったが,今回,(-)-vitisin Bおよび(+)-vitisin C等のスチルベンテトラマーは強力な貝付着阻害作用および大動脈平滑筋弛緩作用を有することが明らかとなった。前者は船舶の航行に関わるエネルギー問題および海水汚染・環境ホルモン問題解決に重要なヒントを与えるものと理解している。また,後者はNO合成酵素を活性化する結果と考えられ,循環器病の治療薬および予防薬の創成に重要なヒント(創薬種)を提供するものと理解している。
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