エポキシドは親電子剤として有用な化合物であるが、エポキシドを求核剤として用いる有機合成はこれまでほとんど例がない。本研究では、その超不安定性のためにこれまで注目されていなかった求核試薬としてのエポキシドすなわちオキシラニルアニオンの合成化学的有用性を開拓する目的で、スルホニル基で安定化されたオキシラニルアニオンを用いて、海洋産ポリ環状エーテル天然毒の基本構造であるポリテトラヒドロピラン環構築に関する研究を実施した。 1.ヒドロキシ-ブロムケトンの閉環反応によるポリテトラヒドロピランの実践的合成法の開発 ラセミ体のエポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニオンを用いる反応によりヒドロキシエポキシスルホンを合成し、これにマグネシウムブロミドを作用させてα-ブロモ-γ-ヒドロキシケトンを合成した。この化合物を塩基(DBU)で処理することにより6員環エーテル環を構築することに成功した。このラセミのエポキシスルホンを用いる合成法は反復可能であり、反応サイクルを3回繰り返すことにより4環性のトランス縮環ポリテトラヒドロピランの合成を達成した。 2.メチル置換型6員環エーテル合成法の開発 海洋産ポリ環状エーテル天然毒に頻出する縮環部位にメチル基が置換した6員環エーテル構造を、メチル置換エポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニンの反応を用いて合成した。本合成では、オキシラニルアニオンのアルキル化で得られるメチル置換ヒドロキシエポキシスルホン誘導体をタリウム塩存在下三フッ化ホウ素で処理することにより、通常の方法では合成が困難なエーテル酸素原子の両側に1、3-ジアキシャルメチル基を有する6員環エーテル化合物を合成することに成功した。 上記の研究成果により、海洋産ポリ環状エーテル天然毒合成の基盤となる合成法を確立することができた。
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