エポキシドは親電子剤として有用な化合物であるが、エポキシドを求核剤として用いる有機合成はこれまでほとんど例がない。本研究では、その超不安定性のためにこれまで注目されていなかった求核試薬としてのエポキシドすなわちオキシラニルアニオンの合成化学的有用性を開拓する目的で、スルホニル基で安定化されたオキシラニルアニオンを用いた有機合成化学的研究を実施し、以下に述べる研究成果を達成した。 1.オキシラニルアニオンのアルキル化反応 超不安定反応活性種であるオキシラニルアニオンのアルキル化反応が、アルキル化剤としてトリフルオロメタンスルホン酸エステルを用い、極低温(-100℃)で反応を行うことにより、高収率でアルキル化生成物が得られることを見いだした。 2.6-エンド閉環反応によるポリテトラヒドロピランの合成 スルホニル基置換オキシラニルアニオンのアルキル化と6-エンド閉環反応を基盤とした5工程からなるトランス縮環型6員環ポリエーテル骨格の反復型構築法を確立した。 3.メチル置換型6員環エーテル合成法の開発 メチル置換エポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニオンの反応を用いて3種類のメチル置換ヒドロキシエポキシスルホン誘導体を合成し、それらの6-エンド閉環反応条件を確立し、エーテル酸素原子に隣接する縮環部位にメチル基が置換した6員環エーテル骨格を構築することに成功した。 4.赤潮毒ヘミブレベトキシンBの合成 上記で開発した合成法を用いて、メキシコ湾で発生した赤潮の有毒成分ヘミブレベトキシンBの効率的形式全合成を達成した。
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