研究概要 |
5-Endo-trig型ラジカル環化反応はいわゆるBaldwin則によって禁制の反応とされ、われわれが最初の例を見出すまで成功例はなかった。本研究はこの環化反応がなぜ容易に起こるのかを明らかにし、この反応を応用して生理活性アルカロイド等の合成に応用しようとするものである。当該研究期間中に得られた具体的な成果について以下に列挙する。 1,N-ビニル αーハロアミド類のラジカル環化反応の位置選択性に及ぼす温度効果:N-ビニル αーハロアミドの環化の様式には、5-endo-trigおよび4-exo-trig型の2通りがあり、それぞれ5員環および4員環ラクタムを与える。この環化の位置選択性は反応温度によって影響され、低温(ベンゼン還流条件)では4員環の生成が有利であるが、高温(トルエン還流条件)では5員環の生成が有利になることを見出した。これらの結果は速度論支配と熱力学支配の考え方で説明される。 2,(-)-γ-リコランの合成:2通りの方法で検討した。一つは、(6-aryl-l-cyclohexen-l-yl)-2-halo-acetamide類の、5-endo-trig型ラジカル環化反応を鍵反応とするものであるが、このルートは副反応が多くまた収率および立体選択性が低いため好ましい方法ではないことがわかった。そこで、第二のルートとして(6-oxo-l-cyclohexen-l-yl)-2-iodoacetamide類の5-endo-trig型ラジカル環化反応を検討したところ、収率よくオクタヒドロインドロン誘導体を与えることがわかった。さらに、窒素原子上にキラル補助剤として(S)-l-phenylethyl基を用いると不斉誘起も見られた。この反応を(-)-γ-リコランの合成に応用した。
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