研究概要 |
5-Endo-trig型ラジカル環化反応はいわゆるBaldwin則によって禁制の反応とされ、われわれが最初の例を見出すまで成功例はなかった。本研究はこの環化反応がなぜ容易に起こるのかを明らかにし、この反応を生理活性アルカロイド等の合成に応用しようとするものである。平成10年度期間中に得られた具体的な成果について以下に列挙する。 1) ラジカル環化反応の位置選択性に及ぼすラジカル炭素上の置換基効果及び温度効果:5-endo-trig型及び4-exo-trig型の2様式の環化反応が可能なα-halo-N-(3,4-dihydro-2-naphthyl)acetamide類をモデル化合物として、環化反応の位置選択性に及ぼすラジカル炭素上とアミド窒素の置換基効果及び反応温度効果について検討を行った。その結果、中間体のカルバモイルメチルラジカルが安定化を受けない場合(置換基として水素または塩素原子)は4-exo-trig型環化反応が優先的に進行するのに対して、安定化置換基(methyl,phenyl,phenylthio,dimethyl及びdichloro)がラジカル炭素上に存在する場合は5-cndo-trig型環化反応が優先的または一方的に進行することが判明した。また、アミド窒素原子上置換基の立体的かさ高さは位置選択性に無関係であることも判った。一方、反応温度による効果は、昨年度明らかにした知見の通り、低温(ベンゼン還流条件)では4員環生成が有利であるが、高温(トルエン還流条件)では5員環生成が有利であった。以上の結果を総合すると4-exo-trig型環化反応は速度論支配、5-endo一trig型環化反応は熱力学支配の条件下で優先するものと考えられる。 2) パンクラシンの合成:N-(1-cyclohexen-l-yl)-α-aryl-α-(phenylthio)acetamideの5-endo-trig型ラジカル環化反応によりoctahydroindolone誘導体が収率良く得られた。これを化学変換により、5,11-methanomorphanthridineへと導き、パンクラシンの合成を達成した。
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