研究概要 |
還元的脱硫反応には通常ラネ-ニッケルが用いられているが、最大の欠点は二級水酸基のラセミ化が起こることである。これはラネ-ニッケルによる還元的脱硫反応を不斉合成に用いる場合に深刻な問題点である。 我々はα,β-不飽和カルボニル化合物の光学活性二級アルコールへの新規不斉還元法として光学活性メルカプトアルコールを用いた高選択的不斉Tandem Michael-MPV反応(J.Am.Chem.Soc.に発表)を開発する過程において、生成物(光学活性3-ヒドロキシチオエーテル類)のアルコールの光学純度を完全に保持できる還元的脱硫反応が必要になり、ラネ-ニッケルの上記の欠点を克服することのできるラネ-ニッケル(W2)-次亜リン酸組合せ反応剤による新規還元的脱硫反応を開発することができた(Tetrahedron Lett.に発表)。 この新規還元的脱硫反応のScope and Limitationsを精査検討し、以下の特徴を有していることを明らかにし本論文としてTetrahedronに発表した。1)本反応剤はアリール基、アラルキル基、アシル基等のイオウラジカルを安定化することのできる置換基を有するチオエーテル、スルホキシドの還元的脱硫反応に使用でき、基質に含まれる光学活性二級アルコールに立体配置を完全に保持することができる。2)反応時間は短時間(30分)で完了し、高収率(75-93%)である。3)本反応剤はスルホン誘導体には反応しない。4)酢酸緩衝液のpHは5.2が最適である。5)本反応剤はベンジルエーテル存在下、アリールあるいはベンジルチオエーテルのみを還元的脱硫することができる。 以上、開発した新規還元的脱硫反応はイオウ原子の特性を活用する不斉合成にとって価値あるものであり、次年度も引き続き研究する。
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