研究概要 |
還元的脱硫反応に通常用いられるラネーニッケルの最大の欠点は二級水酸基のラセミ化を起こすことである。これはラネーニッケルによる還元的脱硫反応を不斉合成に用いる場合に深刻な問題点となっていた。我々はこの問題点の解決法に取り組み、当初の目的をほぼ達成することができた。 光学活性メルカプトアルコールを用いたα,β-不飽和カルボニル化合物の光学活性二級アルコールへの新規な高選択的不斉Tandem Michael-MPV反応(J.Am.Chem.Soc.に発表)を開発する過程において、ラネーニッケル(W2)-次亜リン酸組合せ反応剤による新規還元的脱硫反応を開発することができた(Tetrahedron Lett.に発表)。この新規脱硫反応を精査検討し、本反応剤はアリール基、アラルキル基、アシル基等のイオウラジカルを安定化することのできる置換基を有するチオエーテル、スルホキシドの還元的脱硫反応に使用でき、基質に含まれる光学活性二級アルコールの立体配置を完全に保持することができる、反応時間は短時間(30分)で完了し、高収率(75-93%)である、等の特徴を有していることを明らかにし、本論文としてTetrahedronに発表した。 また、本反応剤はベンジルエーテル存在下、アリールあるいはベンジルチオエーテルのみを還元的脱硫することができる、α,β-不飽和カルボニル化合物に適用すると基質によっては高選択的に飽和ケトン或いは二級アルコールに還元することができる、飽和ケトンとα,β-不飽和カルボニル基が共存する基質ではα,β-不飽和カルボニル基の二重結合だけを選択的に還元することができる、等の特徴を有していることも明らかにした(投稿準備中)。 以上、開発した新規還元的脱硫反応はイオウ原子の特性を活用する不斉合成にとって価値があり、有用であると云える。
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