研究概要 |
地衣菌Graphis scripta(モジゴケ)の単離培養から不完全糸状菌Alternaria tenuisのマイコトキシンalternariolと同じ骨格をもつ新規化合物graphislactone類をこれまでに単離,構造決定している.これを契機として,「トキシンの生合成経路は,天然の共生状態の地衣では共生藻にとって好ましくないため抑えられているが.地衣菌を単離培養すると発現してくる」との仮説をたてた.今回これを明らかにする目的でアメリカおよび日本で採集したGraphis種の地衣菌を高濃度の糖を含む寒天上で単離培養し,その培養物を精査したところ前者からはgraphislactoneを単離し,また後者からはgraphislactoneとともにalternariolを単離した.この結果から.Graphis属では採集地域が大きく異なるものでも菌を単離培養すると共通の代謝経路が発現し,またその生合成経路はAlternaria属と同様で,さらに酸化段階の進んだものであることが強く示唆された.一方,Pyrenula(サネゴケ)属の地衣菌培養からは新規のxanthone類2種を単離し,スペクトルの解析によりそれらの構造を決定した.これらはいずれもxanthone骨格の3位にメチル基を有し,従来共生状態の地衣類から見出されているlichexanthoneとはメチル基の位置を異にしていることから,酢酸由来の生合成経路が共生状態の地衣とは大きく異なることが予想された.またアメリカ産のPyrenula属の地衣菌培養物からも同じ成分が得られたことからPyrenula属においてもGraphis属と同様,採集地域に関わらず,地衣菌の培養においては独自の代謝経路が発現していることが確認できた.また現在,これら代謝物の生合成経路を確認する目的で,^<13>Cで標識した酢酸の投与実験を行い,また代謝物の生物活性を調べるため多量の培養を行っている.
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