可溶型マウスFc_γレセプターII(sFc_γRII)とマウスIgG2bのFcフラグメントの相互作用系に関して以下の知見を得た。 1. 安定同位体を利用したNMR解析によりIgG上のsFc_γRII結合部位はヒンジ領域下流とその空間的近傍であることが明らかとなった。これらの領域は負電荷を帯びており、sFc_γRIIの正電荷を帯びた部分と静電相互作用を行っていることが明らかとなった。 2. Fcの糖鎖結合部位であるAsn297をAlaに置換した変異体はsFc_γRIIとの結合能を完全に喪失していた。各種グリコシダーゼを用いてこの糖鎖を非還元末端より逐次切除したFcを用いてsFc_γRIIとの結合能を解析した結果、エンドグリコシダーゼD処理によりGlcNAcとFucのみを残したFcでは結合活性が顕著に低下しているることが明らかとなった。NMR解析を行った結果、エンドグリコシダーゼD処理に伴って糖鎖とペプチド鎖との相互作用が減少し、糖鎖は高い運動性を獲得する一方、sFc_γRII結合部位を含むC_H2ドメインの広範囲に高次構造変化が誘起されることが明らかとなった。 3. sFc_γRII分子上の糖鎖結合部位を同定するとともに、主要なN-結合型糖鎖構造を決定し、糖鎖のトリミング法を確立した。 4. ゲルろ過および超遠心分析の結果、FcとsFc_γRIIは1分子対1分子の複合体を形成していることが明らかとなった。NMR解析の結果、ホモダイマー構造を有するFc上の2つの等価なsFc_γRII結合部位のうちの一方にsFc_γRIIが結合すると、他方にも高次構造変化が誘起されることが判明した。こうした高次構造変化の結果、1分子のFCに2分子のFc_γRIIが同時に結合することは不可能となり、単分子のIgGが抗原非存在下で自発的にFcγRIIを架橋して細胞応答を引き起こしてしまうことが抑制されていると結論した。
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