光学対掌体であるsemotiadil(R体)とlevosemotiadil(S体)はは薬理作用も体内動態特性も大きく異なる。肝臓通過動態を調べたところ肝通過率FHがsemotiadilで2%、levosemotiadilで10%とR体が大きく消失することがわかった。肝通過時間tHはsemotiadilで0.15分でlevosemotiadilで0.20分と有意に異なることが分かった。このことはS体の分布の程度が大きいことを示している。R体は一旦肝組織に分布するとただち肝へ取り込まれ、分布相が観測しにくくなっていると考えられる。これはR体の消失率が大きいことと対応している。5-fluorouracil(5-fu)とそのプロドラッグである5′-deoxy-5-fluorouridine(DFUR)を消化管壁代謝のモデル化合物として採用した。覚醒ラットにDFURを経口投与した場合DFURとして65%が門脈内吸収され、代謝物である5-Fuとして7%門脈に現れることが分かった。また両薬物の門脈への吸収時間はほぼ一致したことより、5-FUがさらに消化管で大きく消失していることが予想された。その後の追加実験でDFURとuridineを併用投与したところDFURからの代謝物である5-FUのFaが減少ずるはずが、逆に大きく増加した。これは前回の実験で予想された5-FUの消化壁での消失をuridineが阻害したものと結論された。BOF-4272はR体とS体からなるラセミ化合物である。この肝臓動態を調べたところ、37℃と4℃の2つの温度で灌流液中のBSAの濃度を変化させてBOF-4272の肝消失動態を調べた。4℃ではBSAの濃度を変えてもRとS体の消失率が同じなのに、37℃ではBSAの濃度とともにR体の消失がS体のそれの二倍に増加する現象が発見された。また4℃の実験により37℃では観測が困難であった平衡分布相の存在を確認できた。つまりBOF-4272の肝藏での大きな消失は一旦、平衡分布相に移行後、連携した取り込み過程により説明できた。
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