血漿中の代表的な糖タンパク質であるα_1-酸性糖タンパク(AGP)は糖鎖構造の違いに由来するミクロな不均一性を示す。病態時にミクロ不均一性が変動することが判明したため、病態診断の観点からAGPのミクロ不均一性の簡便な分析法の開発が望まれている。一方、キャピラリー等電点電気泳動法(CIEF)は、タンパク質をその等電点に基づいて分離する"高分離能"なキャピラリー電気泳動技術である。CIEFでは0.02しか等電点が違わないタンパク質の分離が可能であり、構造が類似したタンパク質変異体の分離分析に有力な方法であると期待されている。そこで本研究は、CIEFを用いてAGP糖鎖末端シアル酸残基の相違に由来するミクロ不均一性の簡便な分析法の開発を試みた。 キャピラリー(全長52cm、内径0.075mm)内に1%のアンフォライト水溶液を満たした後、AGP溶液(0.3g/L〜1.5g/L)を1秒間吸引注入し、+13kVで7分間フォーカシングを行ったところ、AGPは等電点の違いに基づいて8本のピークに分離された。従来法である薄層ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動では5〜8本のピークに分離されるので、今回のcIEFにより従来法と同等以上の分離結果が得られた。移動時間は良好な再現性(CV=0.5%〜1.09%、n=15)を示した。また、総ピーク面積や各ピークの相対ピーク面積も良好な再現性を示した。更に、生理的血漿中濃度をカバーする濃度範囲(0.3g/L〜1.5g/L)で検量線は良好な直線関係を示した。 従来法である薄層ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動ではタンパクゾーンの染色などにより操作が煩雑で時間がかかるという問題点があるのに対して、CIEFはオンラインで検出できるので分析時間が短く操作性に優れる利点があり、病態診断や薬物との結合研究への貢献が期待される。
|