生体内で様々な要因によって発生する活性酸素は、細胞内のDNAに酸化的損傷を与え、発ガンに深く関わっていることが示唆されている。変異原物質は生体内で代謝酵素によりフリーラジカル活性体を生じ、その生成と共役して活性酸素を派生する。この観点から活性酸素に注目が集まる。既に、グアノシン誘導体を用いて、電解によって定量的に生成するスーパーオキシドアニオンラジカルによる損傷のモデル系を確立し、その酸化的損傷について明らかにしてきた。本年度はその機構解明とその量子化学的理解について研究した。また、この過程で目的達成のための分光学的測定法の開発も併せて行った。 スーパーオキシドアニオンラジカルとグアノシンとの反応により、塩基部分が損傷を受けたグアニンとグアニンそのものが生成した。グアニンの生成は、スーパーオキシドアニオンラジカルへプロトン移動したヒドロパーオキシラジカルの不均化反応によって生成した過酸化水素により、グアノシンのNグルコシル結合解裂に起因することが明らかとなった。このメカニズムは既報の過酸化水素の効果と一致する。一方、塩基部分が損傷したグアニンの生成は、スーパーオキシドアニオンラジカルへのプロトン移動によって生成したヒドロパーオキシラジカルとの直接反応によって、生成するものと考えられた。これらの分光学的結果が得られた。このメカニズムは半経験的量子化学計算からも部分的に支持された。これらの結果から、グアノシン損傷のキー反応は、スーパーオキシドアニオンラジカルへの1電子移動ではなく、グアノシンからスーパーオキシドアニオンラジカルへのプロトン移動を引き金とする一連の活性酸素の反応が重要であることが分かった。
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